法務局国籍課職員と相談させていただいたことにより、こでまで漠然と考えていた子供の日本国籍取得について少し整理できたので、ここで一旦まとめておきます。話を一般化するため、代理出産依頼人を日本人夫婦と想定します。
国籍法では出生、届出、帰化のいずれかによって日本国籍を取得することが規定されています。出生による国籍取得は、血統主義を採用しているので、出生時に父または母が日本国民であるときには子は出生によって日本国籍を取得することができます(国籍法第2条第1号)。国際結婚をしている日本人が子供を持った場合、この法律によって子供に日本国籍を取得させるのが一般的でしょう。
ただし血統主義とは、法律上の親の国籍を継承するという意味であって、生物学上の繋がりは関係ない点に注意です。では法律上の親子関係とはなんぞやと言うと、法の適用に関する通則法(以下「通則法」)第28条及び第29条に準拠法を決定して判断されるようです。
まずは母子関係ですが、これは母の本国法によって判断されます。例えば、子を懐妊している代理母がアメリカ・カリフォルニア在住の場合、母子関係についてはカリフォルニア州法が適用されます。もし、カリフォルニア州が、代理母契約に基づいて生殖補助医療によって出生した子を依頼者夫婦の摘出子と推定することを認めているのであれば、生まれてくる子の母は依頼した日本人母となります。
ところが、日本においては民法第772条によって子の懐妊及び出産の事実から摘出母子関係が発生するものと解されていて、摘出でない母子関係(代理母と婚姻関係のない依頼人夫との間で産んだ子との関係)も、分娩の事実により発生するものと解されています。つまり、いくらカリフォルニア州の法律が依頼人女性を法律上の母と認めてくれたとしても、日本では代理母が母親と判断されてしまうのです。法律的に言うと、依頼人女性を母親とすることは「公序良俗に反する」ということです。
父子関係についても、父の本国法によることとされます。もしカリフォルニア州法が代理出産依頼者を摘出子の親と推定するのであれば、代理母が仮に既婚であっても、彼女の夫に父子関係を認められません。アメリカにおいては依頼人夫婦が法律上の父母となります。しかし、日本においては事情が異なります。前述の通り、子と日本人母との母子関係は認められませんし、その配偶者である日本人父の摘出子とも推定されないのです。即ち、日本法下においては、生まれてくる子の唯一の法律上の親は代理母のみということになります。
ただし、生物学上の父である日本人父が子を認知することにより、法律上の父子関係を後から成立させることは可能で、その場合、代理母と日本人父の非嫡出子という扱いになります。
簡単にまとめると、生物学上の父親は、認知という法的プロセスを経ないと法律上の父親にはなれず、法律上の父親になってはじめて子供が日本国籍を得られるというわけです。〈続く〉